理事長あいさつ

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「教育における不易流行」

~コロナ禍にあって0歳からの教育を見直す~ 

 

                  

                        学校法人島田学園 理事長 島 田 教 明 

昨年来のコロナ禍にあって、幼児教育の現場も厳しい状況にあります。多くの行事や活動が中止、縮小を余儀なくされ、子どもたちの貴重な体験が奪われています。こうした中、「不易流行」という言葉が頭をよぎります。私の好きな言葉の一つです。松尾芭蕉は去来抄(*1)の中で、「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」と述べています。不変の真理を知らなければ基礎が確立せず、変化に気づかねば新たな進展がないという意味でしょうか。
今回、運動会、作品展、音楽会など多くの行事や活動の実施・中止の決断を迫られる中、方法論だけではなく、原点に立ち返り実施意義を根底から見直しました。これまでも、行事や活動の評価に当たっては、教職員だけではなく保護者の皆様からも意見をお聞きしてきました。しかし、実施することを前提として、その行事や活動をよりよくするための見直しになりがちでした。今回は、その行事や活動を通して、子どもたちにはどのような知識、能力、感性が育つのか、また、生活の場である保育室、運動場、遊具の在り方、さらには、保護者や地域の皆様との連携の在り方、地域資源の活用などを含めて、まさに、存在意義(レゾンデートル)を問い直す貴重な機会となりました。その過程で、時代を超えて変えてはいけないもの、時代の変化に合わせて変えていくもの、つまり、不易流行を感じました。
コロナ禍という閉塞感の漂う状況にあっても、本園の子どもたちの様子を見ていますと、しなやかに、そして強く対応しています。例えば、子どもたちが楽しみにしている行事の1つである「夏祭り」の中止が、担任から知らされると、「自分たちで、できないの?」と担任に訴える。「やってみようか!」と担任。その輪が全園に広がり、設置する遊びコーナー、道具の製作などを全園で進めました。ランチ室も協力して、焼きそば、フランクフルトなど祭りらしいメニューを用意してくれました。大成功のうちに「夏祭り(ごっこ)」ができました。その姿に、本園で実践してきました「スマート・プロジェクト・メソッド」の成果を実感し、私たちの取組に改めて自信を得ました。
私たちの取組は、これまでも保育モデルとして実践録を出版しており、「中関幼稚園方式」として全国的にも知られるようになっています。(*2)しかし、今から約30年前、家庭環境や子どもたちの変化に本園の幼児教育の在り方があっているのか迷った時期がありました。私や当時の教職員は、全国の幼稚園・保育園を視察し、また、様々な研修会に参加して研究しました。その頃に、ご縁をいただき今も師事している恩師のお一人に、白鴎大学名誉教授の荒井洌先生がいらっしゃいます。
荒井先生は北欧の幼児教育を研究されていらっしゃいました。幼児教育の考え方が私に近いこともあり、先生の研究会にも参加する中で、北欧の幼稚園を一緒に視察する貴重な機会を得ました。その成果を踏まえ、先生のご指導もいただきながら、本園に「スマート・プロジェクト・メソッド」の考え方を導入しました。しかし、実際には導入というよりも、もともと自分の心にあったイメージが、北欧の幼稚園で見た園庭や保育室、そこで生き生きと生活する子どもたちとのふれあいで明確になった、そのイメージを具体化したという感じです。子どもたちが個性に応じて、自然の中で、のびのびと過ごせる環境を整えました。それから20年以上が経過しましたが、今回の混乱の中で奇しくもその成果を実感することができました。

昨年の夏に荒井先生が、「1948年・文部省『保育要領―幼児教育の手引き―』を読む」(*3)という本を上梓されました。終戦間もない混乱期に編纂された幼児保育要領の作成の経緯や内容の解説がわかりやすくなされています。この保育要領の作成委員会の実質的な委員長が、これまた私が尊敬する倉橋惣三先生です。その後の我が国の幼児教育のバイブルとも言える保育要領がこの時期に作成されたことに驚かされますが、倉橋先生のお力が大きかったと推察します。
保育要領の根底に流れる幼児愛(人間愛)に貫かれた幼児教育の哲学は、まさに私たちが大切にしてきたものであり、「不易を知らざれば基立ちがたく」、つまり不変の真理です。また、保育要領には、幼児の生活環境としての建物、運動場、1日の生活の流れなどが具体的に示されています。個々の事物は当時を反映したものですが、配置や使い方などの考え方は不変のものです。例えば、遊具を例に取ると、当時は木製の遊具であり、今ではデジタルです。本園では、小学校で導入されるプログラミング学習やデジタル教科書を既に導入しています。これは、「流行を知らざれば風新たならず」、時代の変化に合わせたものです。しかし、その使い方となれば、保育要領に示されるように、「子どもたちの動きを引き出す原動力になる興味こそ、子どもを成長させる最も大切な要素である。」です。ここにも時代を超えて不変の真理があります。
本園で実践しています幼児教育論「スマート・プロジェクト・メソッド」は、子どもたちの年齢や発達段階に即して、子どもたちが主体的に活動すること(アクティブ・ラーニング)を大切にした保育・教育です。「アクティブ・ラーニング」の重要性は、近年やっと、我が国の小・中学校等でも認識されるようになりました。しかしながら、この保育要領には、既にこの視点が幼児教育において大切であることが示されています。
我が国は、現在、急激な人口減少、未曽有の少子高齢化、地球温暖化、高度情報化技術の急激な進歩など、子どもたちを取り巻く環境が急激に変化しており、10年後の社会を予測することも非常に難しくなってきています。先行き不透明なこれからの社会を生き抜く子どもたちには、自分の力で未来を切り拓いていく「生きる力」がますます求められています。幼児期は人間形成の基礎が培われる時期であることから、幼児教育は極めて重要です。教育における「不易流行」の視点を大切にし、次の世代に引き継げる実践を蓄積していきたいものだと強く感じています。
私たちには、幼稚園創立以来、大切にしてきた教育者としての思いがあります。それは、「子どもたちの心の声を聴く保育・教育」ということです。時代がどのように変わっていこうとも、私たちは、この思いを大切にしながら、輝かしい「子どもたちの未来」に責任をもって保育・教育を進めていきたいと考えています。
保護者の皆様には、お子様の保育・教育の場として「認定こども園 中関幼稚園」を選んでいただき、皆様とご縁を得ましたことを心から感謝申しあげますとともに、皆様方のご期待に応えられますように、教職員一同、日々精進しますことをお誓い申しあげます。

(*1) 去来抄:松尾芭蕉の弟子の向井去来(むかいきょらい)がまとめた俳諧論
(*2) 本園での実践を出版しています。
っこおおkここ「21世紀の保育モデル」<2008、オクターブ出版>
こおこっこここ「0歳からの教育」<2012、オクターブ出版>
(*3)「1948年・文部省『保育要領―幼児教育の手引き―』を読む」

       荒 井  洌 著 <2020、新読書社出版>